市場動向/新興国投資

スエズ運河コンテナ座礁船の今後の影響について

かずお
スエズ運河のコンテナ船座礁が、大きなニュースになっとったな。でも、なんでそこまでみんなが注目してたんかな?
すでに座礁した船も離岸して多くの船の通行が再開したね。でも、今回の事故で投資家にとって勉強になったこともたくさんあるよ。今回は、事故の概要海運におけるスエズ運河の重要性今後の影響について一緒に考えてみよう!
深町 ケン

こんな人におすすめ!

  • スエズ運河について知りたい。
  • 今後の市場への影響が気になる。

超要約

10秒でわかる本記事の超要約です。

ポイント

  • スエズ運河は、年間1,9000隻もの船舶が通行するアジア・中東とヨーロッパをつなぐ海上輸送の超重要な人口運河
  • 通行料は超高額でエジプトの大事な収入源になっている。
  • 座礁の問題は解消されたが、荷詰まりの影響は長期化しそう。(海上輸送コスト増加に拍車がかかるかも。)
  • スエズ運河の地理的重要性が改めて世界に知れ渡った。

スエズ運河とは?

アジアとヨーロッパを結ぶ超重要海上輸送ルート

そもそもスエズ運河とは一体なんでしょうか。

スエズ運河は、アフリカとアジアの境界であるエジ プト・スエズ地峡に整備された全長193.3kmの人工運 河であり、地中海と紅海を南北に結ぶ交通の要衝です。

欧州~インド洋・西太平洋沿岸地域の海 上輸送距離短縮に大きな役割を果たしており、欧州の 主要港のひとつであるオランダのロッテルダム港と京 浜港の間の航行距離を例に取ると、スエズ運河を経由 した航路(20,728km)はアフリカ最南端の喜望峰を迂 回する航路(26,867km)と比較して23%短縮されると いう大きな効果をもたらしています。

(日本港湾協会)

2019年の船種別同運河通航量では、コンテナ船が5,375隻で最多である。タンカーが5,163隻、バルカーが4,200隻と続き、この3船種で全体の8割弱を占める。また年間1万9,000隻超の船舶が航行し、1日の平均航行隻数は約50隻です。

スエズ運河は世界海上貿易の約10%を占める重要ルートになっています。特に原油・天然ガスの輸送では戦略的な輸送路となっています。ペルシャ湾岸の産油国から欧州の消費国まで北上する船だけでなく、南下してロシア産のエネルギー資源をアジアに運ぶ船も多く通行します。アメリカのエネルギー情報局によると、このスエズ運河と併設のスメドパイプラインの合計で、世界の石油輸送の9%、液化天然ガス(LNG)の8%を担うと言われています。

エジプト政府の重要な安定的な収入源

スエズ運河の運営は、エジプト政府のスエズ運河庁によって運営・維持管理が行われています。エジプトの主な収入源は、観光湾岸諸国の出稼ぎ労働者からの海外送金になっていますが、それぞれ世界の経済状況に大きく左右されて増減しています。

特に2020年のコロナウイルスの世界的な感染拡大の状況下では、観光収入は激減しエジプトの財政は非常に厳しい状況にあります。

そんな中、スエズ運河を通行する船舶は必要な生活必需品やエネルギー資源のために多くの物資を運びながら運行していたため安定的な収入源となっています。

座礁事故の概要

2021年3月23日、中国からオランダへ航行中のコンテナ船、エバーギブン号(パナマ船籍、日本の正栄汽船が所有)がスエズ運河で座礁しました。

座礁事故により、運河に400隻以上の船舶が足止めを食らった。多くの財の移動が一時的に停止したことで、ブレント原油先物価格は4%上昇し、64ドルになりました。

離礁作業は事故当日から始まり、エジプトのスエズ運河庁をはじめ、複数の外国の支援を得て29日、離礁に成功した。エジプト当局は事故原因について当初、強風や砂嵐とみていたが、27日、スエズ運河庁のウサーマ・ラビーウ長官は技術的もしくは人的ミスが原因とみられると述べています。また長官は、座礁事故による損害額は10億ドルを超えるだろうと述べています。

座礁当時の写真(AFP通信)

今後の影響

代替航路の模索は進むが、スエズ運河の要衝の地位はそうそう崩れない。

今回の事故で、世界各国の船会社はスエズ運河以外の物流ルートの検討を進めることになるでしょう。

早速、ロシアの国営エネルギー企業・ロスアトム社は、ロシアに利益がもたらされる北極海ルートの有効性を早速主張していますし、

石油・天然ガスの輸送に関しては、東地中海諸国で進むパイプライン計画の実用性が議論されていくことになるかもしれません。

しかし、これらの地域における陸上輸送はパイプラインをいくつもの国を跨ぐ構造になるため多くの国の治安・政治リスクを考慮しなければならないため、スエズ運河ルートの重要性が低下することは当面考えにくいでしょう。

今後、エジプト政府はスエズ運河の安全な通行を保障するため、何らかの運河再開発計画を検討すると考えられる。シーシー大統領就任後の目玉プロジェクトとして2015年に約9,300億円も投じて完成されたスエズ運河の新航路が今回の事件でまったく役立たなかったことは皮肉です。

運河再開発計画を立ち上げた場合はシーシー大統領の危機管理政策の評価が上がることも考えられ、スエズ運河の今後の動向がエジプト内政を大きく左右することになるかもしれません。

一方、座礁事故が世界的に報じられた件はリスクもあります。スエズ運河東岸のシナイ半島北部ではイスラーム過激派が活動しており、運河周辺は軍の厳重警備体勢下にあるが、今回の事故は運河の攻撃がエジプトや世界の経済に影響を与えうることを示したため、過激派の攻撃の標的になる可能性はあるでしょう。

実際に、アル=カーイダは過去に港湾の攻撃を示唆する声明を出したことがあります。スエズ運河の通行の安全を確保するためには、運河の技術的開発と同時に治安面も考慮する必要があるでしょう。

海運業への影響

今回のスエズ運河の座礁事故は、最近「海賊銘柄」として世間を賑わせている海運業へはどのような影響があるのでしょうか。

座礁事件より以前に海運業界の特にコンテナ運賃がずっと高止まりしていました。その原因は圧倒的なコンテナ不足です。
その原因は、

  • 米中摩擦の経済制裁で大国間の需給バランスが崩れている。
    →アメリカから中国への荷物はたくさんあるのに、アメリカから中国への荷物は全然ない!!(コンテナがアジアにない!)
  • 米国の景気刺激策の影響で消費が急激に伸びている。
    →個人消費がどんどん伸びている
  • 港の労働者がコロナ対策で規模を縮小してイペレーション
    →コンテナ取扱量は増えているのに、人手が足りない!!

その中で、スエズ運河で予期せぬ滞留が起きてしまいました。これは、アジア〜ヨーロッパ間のコンテナ輸送がスエズ運河でスタックしてしまい、その後の現状復帰は大変になります。すでに、座礁船舶は離岸していますが、立ち往生していた船舶が一気に動き出し、港に大挙します。

ただ、港も一度に多くの荷物をさばくにも限界があります。しかも、コロナ渦で巣篭もり需要が増えている中で、港だけでなく、物流全体で人手が不足しているため、今後も影響が長期化しそうです。

まとめ

いかがでしたか?

今回は、スエズ運河について、

  • スエズ運河の概要
  • 座礁事件について
  • 今後の影響

について、まとめてみました。

エジプトにとって貴重な収入源になっているだけでなく、世界の物流に大きな影響を及ぼす非常に重要な場所であることがわかったのではないでしょうか。

今後エジプトの経済や政治情勢に変化があった時に

スエズ運河はどうなっているか!?きちんと通行できているか!?

を真っ先に確認することは、エネルギー資源や株式市場を先取りするヒントになるかもしれません。

参考情報

日本港湾協会

AFP通信

中東調査会

日本経済新聞

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