今回は、9月後半の途上国を中心とした主な国際的なニュースと各国の動向を取り上げたいと思います!
マクロ経済の大きなイベントである、FOMCの開催やOECDのアジア経済見通しなどの国際情勢やブータンのデジタル通貨、南アフリカのベーシックインカムの導入や主要新興国の動向などをまとめました。
こんな方におすすめ!
- 市場に関係する主要な世界のニュースを振り返りたい
- 世界的なマクロ経済に関する最新の情報を知りたい
- 新興国市場や各国の動向を確認したい
- 主要な新興国ETFの指標を確認したい
国際政治・世界経済の主な動向
FRB パウエル議長 11 月の量的緩和縮小開始の可能性に言及
9 月22 日、米国連邦準備制度理事会(FRB)は、定例(年8 回)の金融政策決定会合である連邦公開市場委員会(FOMC)を開催。
経済活動は回復基調にありつつも、「景気動向は新型コロナウイルスの状況に左右」されており、米国内物価についても、長期的に2%のインフレ率を達成するために当面は「2%よりやや上の水準を目指す」として、FF 金利の誘導目標幅を0〜0.25%に据え置き、現行の緩和的金融政策を維持すると発表。
昨年12 月以降、毎月米国債・資産担保証券を計1,200 億ドルのペースで購入継続することで続けてきた量的緩和の解除(テーパリング)については、 声明では「経済回復が想定通りに進めばすぐに必要と判断」と述べるにとどまった。
しかし、パウエルFRB 議長はFOMC 会合後の会見において、「(経済回復が見通し通りであれば)来年中頃のテーパリング終了が適切かも知れない」とした上で、早ければ次回11 月の会合において、その縮小を決定する可能性を示した。
21 年GDP 予測 世界経済予測(OECD)、アジア経済予測(ADB)ともに下方修正
9 月21 日、経済協力開発機構(OECD)は、21 年の世界経済成長率を5.7%と予測し、5 月発表の予測値より▲0.1%下方引き下げた。
世界GDP は新型コロナウイルス流行前水準に回復したが、ワクチン接種率の違いにより経済回復の各国間の不均等は広がっている模様。
需要の回復やサプライチェーンの混乱を背景に、米国・新興国を中心にインフレが高まっているが、G20 平均インフレ率は21 年の4.5%をピークに来年以降は鈍化の見通しを示し、引き続き各国中銀に金融緩和継続を呼びかけ。
9 月22 日、アジア開発銀行(ADB)は、アジア新興・途上国の21 年成長率予測を7.1%と発表し、4 月時点の予測を▲0.2%下回りました。
中国8.1%、インド10%の成長を見込むが、東南アジアは4 月予測比▲1.3%の3.1%に減速、大洋州は同▲2%の▲0.6%のマイナス成長を見込まれています。
ミャンマーは政治情勢の不安定化によって▲18.4%と4 月時点の▲9.8%から大幅に引き下げられました。
域内インフレ率は、21 年は中国での食料価格低下やコロナでの需要減により2.2%に留まり、22 年に2.7%まで高まることを見込まれています。
21 年度上期 商品市況総括 足元のエネルギー価格の上昇が顕著
2021 年4〜9 月期は、商品価格の上昇が顕著となってきている。
2021 年4 月〜9月(9 月27 日まで。以下同)の原油価格・銅価格は、前半期(20 年10 月〜21 年3月)中の4〜5 割の上昇幅には及ばないものの、それぞれ約23%、約7%の上昇を示している。
一方、石炭価格・天然ガス価格(米・英)については、前半期中は比較的安定的に推移していたものが足元で急上昇しており、4〜9 月の半年間に、石炭価格は約2.1 倍、英国天然ガス価格は約4 倍に上昇。
これらの背景には、地域的事情(ロシアから欧州へのガス供給削減)や気候要因(米国でのハリケーン)等があり、中国では石炭、欧州では天然ガスの在庫不足等が報告されている。
全世界的な傾向として、各国政府の財政出動、低金利政策等で需要が急激に持ち直す中、エネルギー分野ではパンデミック以前より投資が抑制され、供給能力の回復が追いついていないことが背景。
各国の政治・経済の動向
フィリピン
中銀が政策金利据え置き、インフレ加速でも成長優先
9 月23 日、中銀は、政策金利の翌日物リバースレポを7 会合連続で過去最低の2.0%に据え置きました。
21 年8 月のインフレ率は前年同月比4.9%と目標範囲(2.0〜4.0%)を上回っているが、中銀総裁は会見で、「インフレ圧力はまだ制御可能であり、成長の見通しが不確実なことから現行の金融政策は適切」と述べています。
タイ
政府、公的債務の上限を対GDP 比70%に引き上げ
9 月20 日、タイの金融財政政策委員会(委員長・プラユット首相)は、公的債務の対GDP 比の上限を現行の60%から70%に引き上げることを承認しました。
7 月末時点の公的債務が対GDP 比55.6%となり、上限の60%が迫っていたため引き上げました。
財務省によれば新たに1 兆バーツ(約3 兆2,800 億円)を借り入れる見込みです。
ちなみに、日本のGDP比の公的債務はなんと256%になっています
21 年成長率予測、世銀・ADB が下方修正、観光再開の遅れから
9 月28 日、世銀は、タイの今年の国内総生産(GDP)成長率が1.0%との見通しを示し、7 月に発表した2.2%から予測を引き下げました。
またアジア開発銀行(ADB)は22 日、最新の経済見通しの中で、タイの21 年の実質GDP 成長率を0.8%と予測し、4 月時点の3.1%から1.3%ポイント下方修正しました。
何れも、新型コロナウイルスの感染再拡大と、観光者の受け入れ再開の遅れを理由に挙げられています。
世銀は、タイ経済がコロナ禍前の水準に戻るのは2023 年と、従来予想していた22 年よりも1 年遅くなると指摘しています。
先日は、タイの渡航者の隔離措置が緩和されたというニュースを取り上げましたが、このままコロナが治れば本格的に観光セクターが盛り返してくることが期待できます。
私も早くタイに行きたい!
ベトナム
7〜9 月期成長率は過去最大の落ち込み 政府はゼロコロナ政策からの転換を模索
9 月29 日、政府統計局が発表した第3 四半期のGDP は前年同期比▲6.17%の減少となり、新型コロナウイルス対策の制限措置により過去最大の落ち込みとなりました。
内訳では、サービス部門が▲9.3%、工業・建設部門は▲5.0%だが、農業部門は1.0%増加しています。
一方、首相は25 日、来週から新型コロナウイルス感染抑制の規制を緩和し、企業の生産再開を認める方針を示しています。
本年4 月頃までは世界最高水準でコロナを抑制してきたものの、その後南部を中心に感染者数が急増しているが、「ゼロコロナ政策」から「ウイルスとの共存」への政策転換を模索しているとみられています。
中国
習主席、海外の石炭火力建設中止を表明
9 月22 日、習国家主席は、米ニューヨークで開催中の国連総会一般討論において、発展途上国の低炭素推進を強力に支援し、海外で石炭火力発電所を新たに建設しないと表明しました。
二酸化炭素の排出削減に取り組む考えを示しました。
海外での石炭火力発電所の建設中止は米国が求めており、対立が深まる米欧と気候変動分野で協調し、さらなる対立激化は回避したい思惑がうかがえます。
恒大の債務問題に対する政府の対応に注目
9月23 日、各種報道によれば多額の債務不履行危機が報じられている不動産大手・中国恒大集団は、人民元建て債の利払いを実施したが、同日のドル建て債の利払い(約8,350 万ドル)は実施されませんでした。
ドル債の利払いには30 日間の猶予期間があるため、債務不履行は、一旦は回避されています。
政府は、8 月の中央財経委員会で、「共同富裕」と並んで金融リスクの解消を議題としており、一定の債務不履行は黙認しながら、銀行の連鎖破綻や預金の取り付け騒ぎの回避し、金融危機を阻止する姿勢を鮮明に示しています。
格付会社S&P は、「政府は恒大を直接支援することはない。政府が介入するのは、多数の不動産会社が破綻し、経済にシステミックリスクが生じた場合に限られる」との見解を公表しました。
政府は、広がった格差の是正を打ち出す中、住宅価格上昇の元凶として不動産業界に対する規制を強化し、社会的な影響から直接的な救済は避けつつも、金融システム破綻防止の舵取りを迫られている。
ブータン
中銀、デジタル通貨の試験運用へ
9 月22 日、報道によると、中銀は米リップル社と協働し中央銀行デジタル通貨(CBDC)の試験運用を始めると発表しました。
発行を検討する「デジタルニュルタム(仮称)」により、個人間送金や海外送金、卸売り決済の分野で試験運用を始めます。
中銀は誰もが金融サービスを受けられる「金融包摂」を目指しており、CBDC が実用化すれば、スマートフォンの専用アプリで電話番号やQR コードを使って店頭での支払いに利用することなどが期待されています。
ブータンの通貨の単位のニュルタムって初めて知りました。なんだか可愛いですね笑
ブラジル
政策金利の1.00%引き上げ、9 月の前年同月比インフレ率は10%を突破
9 月22 日、ブラジル中央銀行は、金融政策委員会において、政策金利を 1.00%引き上げ、6.25%とすることを決定しました。
3 月以降、政策金利は計4.25%上昇しており、5 回連続での引き上げとなりました。
インフレ率は年間のインフレ目標値(3.75±1.5%)を大きく上回って推移しており、インフレ目標達成を確実にするために次回会合でも同程度の利上げが継続される見通しであり、こうした利上げ期待はレアルの下支え要因にもなっています。
ブラジル地理統計院が24 日に発表した9 月半ばまでの1 カ月間の拡大消費者物価指数は、前年同月比10.05%上昇し、伸び率は16 年以来5 年ぶりに10%を突破しました。
前月比では1.14%上昇し、9 月としては27 年ぶりの高水準。燃料価格は前月比3%上昇しました。
ガソリン価格は前月比2.85%上昇し、前年同月比では39%上昇した。航空運賃は前月比29%上昇しています。
深刻な干ばつで主な発電源である水力発電所が打撃を受けたことから、電気代は前月比3.61%上昇しています。
過度なインフラが急激に進み、不景気の契機とならないような金融引き締めへの方針転換が急がれます。
南アフリカ
財務省、暴動受けベーシックインカム導入検討
9 月22 日、報道によると、財務省は貧困緩和のための現金給付の研究を委託しました。
7 月の暴動はズマ前大統領の収監が主因だったが、貧困等で苦しむ人々により拡大しました。
21 年第2 四半期には失業率が44%まで上昇しており、実際には長期の失業給付が恒久的な現金給付になるとの見方もあります。
他方、既に財政は圧迫されていること等から、専門家や与党の一部では現金給付に消極的な意見もあるようです。
中銀、金利据え置き 21 年GDP 見通しは5.3%に引き上げ
9 月23 日、中銀は主要政策金利を3.5%に7 会合連続で据え置き、経済が回復を続ける中で資金需要を引き続き支えるための方針です。
21 年第4 四半期には25bps 引き上げ、22〜23 年も経済の回復に合わせ緩やかに政策金利を引き上げる見通しとなっています。
また、資源価格の上昇による上半期の鉱業部門等の成長により、21 年のGDP 見通しを5.3%(6月時は4.2%)に引き上げました。
トルコ
インフレ加速でも利下げ、通貨最安値を更新
9 月23 日、中銀は金融政策決定会合を開き、主要政策金利の1 週間物レポ金利を年19%から18%に引き下げました。
インフレが加速する中での利下げは、高金利を嫌うエルドアン大統領の意向をくんだものとみられます。
8 月のインフレ率は19.25%と3カ月連続で上昇し政策金利を上回っていたが、中銀総裁は今月上旬より、政策を決定する上で、「総合インフレ率より低い水準で推移し(8 月16.76%)、前月よりも低下したコアインフレ率(食品やエネルギーなど価格変動が激しい品目を除いたもの)の重要性が増している」と発言していました。
金利据え置き予想が大勢だった市場では通貨リラが史上最安値を更新し1 ドル8.9 リラを記録しました。
エルドアン政権の金融市場を垣間見ない政策に、投資家のみならず市民の多くが過激なインフレに苦しんでいる様子が伺えます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
デルタ株の感染拡大は、世界経済の共通の不安材料になっていますが、新興国の中でも経済が持ち直してきている国とそうでない国の明暗がはっきりと分かれてきています。
新興国投資をこのタイミングで行う場合は、どの国に投資するべきかを各指標をきちんと比較して行うことがリスク低減につながると思います。
また、世界各国の物価がじわじわと上がってきています。インフレターゲットを達成した国から金利がどんどんと上がっていき、市場環境も金融相場から業績相場へと変化していくのでポートフォリオの見直しを少しずつしていく必要がありますね。