市場動向/新興国投資

21年7月中旬の新興市場動向の振り返り

深町 ケン
暑い日が続きますね。コロナの感染拡大が続いている国もあり依然として余談を許さない状況が続く中で、いよいよオリンピックも始まりました。少しでも早く状況が好転することを祈りつつ、直近2週間の新興国を中心とした動きを振り返りましょう。

国際政治・世界経済の主な動向

G20で国際的法人課税ルールにおいて歴史的な大枠合意

7 月 10~11 日、イタリア・ベネチアにおいて、G20 の財務省・中央銀行総裁会議が行われました。

この会議で、OECD/G20 の包摂的枠組が公表した「経済のデジタル化 に伴う課税上の課題に対応する二つの柱の解決に関する声明」で示されていた多国籍企業の利益の再配分や効果的なグローバルミニマム課税に関する重要項目が承認されました。

今回の合意に対して、IMF ゲオルギエワ専務理事は「最低課税制度が存在することで自国の課税ベースを維持し歳入確保に寄与し、より公正で効果的な税制構築のために、この機会を生かすべき」とコメントしました。

一方、 新興途上国の一部には、先進国主導で決められ新興途上国・地域への裨益が限定的な 本合意に対する不満も残っています。

インド・ベトナム・アフリカ諸国などは、より源泉徴収も可能として課税ベースが広い国連専門家委員会が作成したデジタル課税案 を支持しています。

今後も国際法人税やデジタル課税など国を超えた税制度の動向は、GAFAMなど現在の世界経済を牽引する巨大企業の業績にも大きな影響を及ぼすので要注目です。

世界銀行が東アジア・太平洋地域(中国除く)の 2021 年経済成長率予測を0.4%引き下げ

世界銀行が2021 年の東アジア・太平洋地域(中国を除く)の経済 成長率は 4%になるとの見通しを示し、3 月時点の予測(4.4%)から引き下げました。

引き下げの要因は、コロナワクチンの普及ペースが想定よりも遅れていることです。

他方で、中国を含む地域全体の成長率予測は 7.7%と、3 月時点の 7.4%から上方修正していて、これは中国の経済が堅調な伸びを示していて、アジア地域経済の牽引を期待されていることを意味しています。

多くのアジア諸国ではワクチン接種が完了するのが 2024 年以降になる可能性が高く、途上国にとっての目下の優先事項は十分な量のワクチン確保です。

先進国ではワクチン接種進展に伴い景気が回復する中、途上国の経済回復が遅れる二極化が懸念されています。

ADB がアジア地域の 2021 年経済成長率見通しを 0.1%引き下げ

アジア開発銀行(ADB)は、2021年の域内新興・途上国の経済成長率見通しを見直し、7.2% と発表し、4 月時点の予測(7.3%)から0.1%引き下げました。

東アジア地域は 7.5%(同+0.1%)、中央アジアは 3.6%(同+0.2%)に引き上げています。

その一方で、南アジ ア・東南アジア・大洋州は、コロナ感染の再拡大への対応と経済活動への影響を受けて、それぞれ 8.9%(同▲0.6%)・4.0%(同▲0.4%)・0.3%(同▲1.1%)といずれも成長率見通しを引き下げました。

世界銀行と同様にコロナ感染拡大とワクチン普及の遅れが景気に悪影響を及ぼす可能性が高いと危機感を抱いています。

個別国の政治・経済状況

インドネシア:中銀、21 年成長率予測を 1.2%下方修正

中央銀行は、新型コロナウイルス感染拡大を抑えるため最近導入された行動制限の影響の初期評価を踏まえ、2021 年の経済成長率予測を 4.6%から 3.8%に引き 下げました。

中銀総裁は、行動制限が個人消費に及ぼす影響を軽減する措置が必要との認識を示すとともに、米国の金融引き締めの可能性から通貨ルピアが下落傾向にあることを踏まえて、中銀として金融市場を安定させつつ経済を支援することに苦慮してい ると説明しました。

 

タイ :バンコクを都市封鎖

7 月 9 日、政府は、首都バンコクなどで行動制限を強化すると発表し、事実上のロックダウンに踏み切りました。

12 日から 2 週間、夜間外出を原則禁止し、日中も不要不急な移動を控えるように求めています。

ショッピングモールは館内の食品スーパーや銀行を除き営業を禁じられ、コロナ第 1 波があった 20 年 4 月以来の厳しい措置となり、これが 長引くと経済活動の下押しにつながる懸念が出ています。

 

タイ:中銀は景気成長率見通しを再度下方修正の見込み世銀も見通しを引き下げ

中央銀行の幹部は、今年の国内総生産(GDP)成長率予測を見直すとの考えを明らかにしました。

政府が、新型コロナウイルス感染症対策のために首都バンコクなど 10 都県を対象にロックダウンを実施したことが主な要因です。

中銀は、6 月に開いた金融政策委員会の会合で、新型コロナの第 3 波の影響を考慮して、今年の GDP 成長率予測 を 3.0%から 1.8%に下方修正しており、更なる成長率の下方修正となります。

また、7月15日に世界銀行は、タイの成長率見通しを 2.2%と発表し、3 月に発表した 3.4%から下方修正しています。

 

中国:CO2 排出枠取引の対象地域を全土へ拡大、60 年排出量ゼロ達成へ市場機能活用

7 月 7 日に政府は、7 月から全土で二酸化炭素(CO2)排出枠の取引を始めると決定しました。

13 年から北京市や上海市、湖北省など地域を限定して取引を試行していましたが、7 月から全土での取引が可能になります。

排出枠取引は、政府が企業ごとに一定の CO2 排出枠を決め、その枠を超過した企業は取引所を通じて他社から排出枠を買わなければならないとする仕組みです。

発電事業者 2,225 社が第 1 陣として取引に参加予定のようです。

政府は、30 年までに CO2 排出量をピークアウトさせ、60 年に排出量を実質ゼロにすると宣言 しており、市場機能を活用して目標の達成を目指すようです。

中国の CO2 排出量は 19 年で 98 億トンと世界の 3 割近くを占めており、巨大市場に発展する可能性が高くなっています。

 

中国:第 2 四半期 GDP は 7.9%増、前期からは減速

7 月 15 日、政府が発表した 21 年 4~6 月期の国内総生産(GDP)は前年同期比 7.9%増となり、過去最大の伸びを記録した 1~3 月期の 18.3%増から大きく鈍化しました。

原材料価格の高騰が工業生産に打撃となったほか、消費が伸び悩びました。

また、上半期 GDP は前年 同期比 12.7%増と、予想よりも緩やかな成長となりました。

景気回復を後押しするため、追加景気対策が実施される可能性があるとの見方が広がっています。

 

中国:デジタル人民元白書が公開、132 万カ所で実証実験

7 月 16 日、中央銀行は、デジタル人民元に関する白書を公表しました。

6 月末までに飲食店や交通機関など 132 万カ所で実証実験を行い、取引金額は 345 億元(約 53 億 2,500 万ド ル)、取引回数は 7,075 万回に達したとのことです。

白書では具体的な導入スケジュール は明示されていませんが、冬季五輪開催時に現地で実証実験を重ねて、22 年にも正式発 行するとの見通しがあるようです。

インド:6 月消費者物価指数は前年比 6.26%の伸び

7 月 12 日、政府は、6 月消費者物価指数(CPI)は前年同月比 6.26%の伸びと発表しました。

インフレ率は目標レンジ(2~6%)を超えているものの、新型コロナウイルス感染の2つの大きな波で打撃を受けた経済を下支えするため、中銀は政策金利を現行水準に据え置くとの見方が強まっています。

 

南アフリカ:暴動拡大で経済活動全般に大きな打撃

南アフリカでは、法廷侮辱罪で有罪判決を受けたズマ前大統領が収監されたことを受けて、7 月 9 日より全国各地で暴動が発生しています。

200 人超が死亡し、2500 人超が逮捕されましたが、16 日にラマポーザ大統領は、この状況はほとんどの地域で沈静化したと述 べています。

政府統計局は、被害を受けたインフラの再建には数年かかる可能性があり、 小規模企業は困難に直面し、更なる失業拡大につながると指摘しています。

この状況を受けて、15 日、格付会社 Moody’s は、物的損害や信頼感の低下により経済活動全般への影響という点で大きな打撃が生じる可能性が高いとの見方を示しました。

また、16 日に JP モルガンも、暴動拡大の影響で第 3 四半期 GDP 成長率は▲3% まで落ち込み(従来予測は▲0.5%)、通年の成長も下振れするとの試算を公表しました。

 

トルコ共和国:政策金利を据え置き

7 月 14 日、中銀は政策決定会合で、主要政策金利の1週間物レポレートを 19%に据え置きました。

中銀は、概ね金融引き締め的なスタンスを維持しています。

各種経済指標で中期インフレ率の恒常的な低下が示されるまで、主要政策金利をインフレ率を上回る水準にとどめると改めて表明しました。

トルコのインフレ率は 6 月に 17.53%に上昇。中銀は「経済活動の再開に伴い、夏の間はインフレのボラティリティーが高まる可能性がある」と発言しました。

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