市場動向/新興国投資

21年6月後半の新興市場動向の振り返り

かずお
21年もあっという間に半分が終わってしまいました。21年6月後半の新興国市場に関連する主な動向を振り返ります。

世界の主な動向

アメリカ:米国金融緩和解除前倒しの可能性、新興国経済への影響も

米連邦準備理事会(FRB)の 6 月 16 日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、従来 2024 年以降としていたゼロ金利政策解除について、2023 年に前倒しする可能性を示。国債などを買い入れる量的緩和の縮小開始に関しても今後具体的な議論に入る考えを明らかにしました。物価上昇率が平均で「2%」とする目標を上回る状況が続くなか、5 月に前年同月比 5%に達しています。コロナによる経済危機から徐々に好景気に向かう様子を呈してきました。

しかしその一方で、FRB の金融緩和解除の前倒しが示唆される中、市場では、2013 年 5 月の「テーパー・タントラム」、すなわちリーマン・ショック以降の金融緩和の状況下で FRB 議長により量的金融緩和の縮小を示唆する発言を契機に、金利上昇・株価下落・新興国からの資金流出がまた起こるのではないかと心配されています。。実際に、新興国 25 通貨で構成する「MSCI 新興国通貨指数」は、16 日から 21 日までの間に 1%超下落しました。一部の新興国は利上げで自国通貨を下支えし始めましたが、今後新興国から本格的に資金が流出する傾向が加速すれば、世界経済を揺るがすリスクになりかねないので新興国市場に投資している人はこの動向を注視して見守る必要があります。

また、FRB は 13 年 5 月の総資産残高は 3.3 兆ドル程度に対し、足元ではコロナ対応で 8 兆ドルを超えるレベルまで資産を増やし未曽有の幅で資金供給を行ってきたところ、新興国資産を含むリスク資産は脆弱性を増しています。米国で大幅な金融緩和が継続するという見方から潮目が変わりつつある中、新興国当局も景気刺激と資金流出懸念の間で難しいかじ取りを迫られる。

個別国の政治・経済状況

インドネシア共和国:中銀、政策金利を据え置き 低金利と流動性維持へ

17 日、中銀は主要政策金利の 7 日物リバースレポ金利を史上最低水準の 3.5%に据え置きました。据え置きは 4 会合連続。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、緩和的な金融政策を維持しています。中銀総裁は、インフレ率が上昇するまで低い金利と豊富な流動性を維持するとの確約を繰り返しています。5 月のインフレ率は 1.68%上昇で、中銀目標である 2〜4%を依然下回りました。加えて、総裁は米国のテーパリングの早期化に対し、

われわれはルピア相場の安定に向けた対策を最適化するほか、財政当局と協力し、債券利回りへの影響を適正な範囲内に抑える」と発言しています。引き続き中銀は経済と金融市場の安定の複雑な対応を求められています。

タイ王国:タイ・マレーシア中銀による QR コード決済・送金プロジェクトが稼働、国境を越えた中銀による FinTech 案件として注目

6 月 18 日、タイとマレーシアの中銀は、両国間で QR コードを用いた資金決済、送金を可能にするプロジェクトが稼働すると発表しました。プロジェクトは 3 段階のステップで推進されており、第 1 段階では、国内店舗でマレーシアの電子決済アプリを使った QR コード決済が可能になっています。第 2 段階では、今年 10〜12 月をめどにマレーシア国内の店舗でタイの電子決済アプリを使った QR コード決済が可能になります。

第3段階では、携帯電話番号に基づく即時送金サービスを来年10〜12月に導入する予定です。民間企業によるFinTech案件は多い中、複数の中銀が参画する、国境を越えたFinTech 案件として非常に注目されています。

ベトナム社会主義共和国:上期 GDP は 5.8%増見通し 目標下回る

6 月 15 日、計画投資相は、今年上半期の実質 GDP 成長率が 5.8%になるとの見通しを明らかにしました。4 月下旬以降に広がった新型コロナウイルス感染第 4 波の影響で当初の政府目標をを0.4%下回っています今年通年では 6.5%の成長を目標としていますが、同相は下半期の経済のリスク要因として新型コロナ禍の感染拡大、外資企業への依存、インフレ率の上昇を挙げました。ベトナムは現在コロナ感染拡大の第 4 波による一部工業団地などで操業停止を余儀なくされています。輸出では海外企業の割合が 74.8%と高水準で、日本や中国なども含む企業の生産正常化が高成長を維持するカギになっています。また、海上貨物運賃の高騰や原材料価格の高騰も生産活動へのマイナス材料となっているようです。

中国:5 月卸売物価、9.0%上昇、一方で最終製品への価格移転進まず、企業の採算は悪化

6 月 9 日、政府発表によると、5 月卸売物価指数は前年同月比 9.0%上昇リーマン・ショックが起きた 08 年 9 月以来、12 年 8 カ月ぶりの伸びとなり、21 年 1 月にプラスに転じた後、4 カ月で 8.7 ポイントも拡大しています。一方で 5 月消費者物価指数は 1.3%上昇にとどまり、生産コストが高騰するなか、最終製品への価格転嫁が遅れているようです。

これは、生活品の値上がりが庶民の不満を高めることを懸念する政府が価格統制を強めていることが一因と考えられています。価格統制は最終製品の価格上昇を抑える効果はありますが、中小企業は採算を悪化させています。国内の就業者の 8 割が中小企業で働くこともあり、中小企業の収益回復がもたつけば、雇用に響く懸念もあります。価格統制など政府の市場介入は経済正常化の足かせになっているとの見方があります。

インド :インド中銀、一部委員がインフレ上昇に対する警戒に言及

6 月 18 日、中銀が公表した6月金融政策委員会の議事要旨によると、一部委員から、インフレを警戒する必要があるとの声が出ているとのことです。大半の委員は、6 月は政策金利を過去最低水準で維持、足元のインフレ圧力については一過性として、緩和的な政策を維持するとしているが、その後発表された5月の小売物価指数は前年同月比6.3%の上昇となり、中銀のインフレ目標を上回っています。緩和的な政策をどれだけ長く続けられるのかについての懸念が生じている模様です。

ブラジル連邦共和国:政策金利 3 会合連続の利上げ

6 月 16 日、中銀は政策金利を 75bps 引き上げ 4.25%とすることを決定した。インフレ期待が上昇しており、市場予想通りの 3 会合連続利上げとなった。8 月の次回会合でも追加利上げされる可能性が高く、インフレ上昇の見通しが一段と悪化した場合は、大幅な利上げを実施する可能性も。

南アフリカ共和国:企業景況感指数、5 月は 3 年超ぶり高水準の 97.0

6 月 9 日、商工会議所は、5 月の企業景況感指数は 97.0 と、4 月の 94.7 から上昇したと発表。輸出と製造業部門の伸びに支えられ、18 年 3 月の 97.6 以来、3 年超ぶりの高水準となった。

ナイジェリア連邦共和国:年末にも中銀デジタル通貨を試験導入

6 月 19 日、民間情報機関によると、中央銀行が早ければ今年末にデジタル通貨を試験発行するため準備を進めていることを表明した。今後数週間以内に、さらに詳しい発表がなされる可能性があります。アフリカでは暗号資産(仮想通貨)による海外との毎月の相互送金が爆発的に増加中。同国は今年 2 月、銀行と金融機関の暗号資産の取り扱いを禁止していたが、世界の約 8 割の中銀が中銀デジタル通貨発行の可能性を検討している中、取り残されることのないよう、検討を進めている模様。

トルコ共和国:金利維持、インフレ低下まで「断固として」引き締め姿勢

17 日、中銀は政策金利1週間物レポ金利を 3 カ月連続で 19%で据え置く。声明は「高水準のインフレとインフレ期待を考慮し、4 月のインフレ報告で予測された軌道からの大幅な低下が実現するまでは、現行の引き締め的な金融政策姿勢を断固として維持する」としている。「引き締め的」と「断固として」が追加されより強い表現となりました。前日のFOMC のタカ派化を受けたドル全面高の中で、通貨価値の安定を図るべく引き締め的なスタンスを強調したと見られています。ただし、金融緩和を求める大統領にも配慮せざるを得ず、為替レートは目先で不安定な状態が続く公算が大きい。

-市場動向/新興国投資